hベクトルの対称性
以前、simple polytopeはグラフから組合せ構造が復元できるというKalaiの結果を紹介しました。そこで登場したgeneric directonによる頂点の順位付けに関する話です。
定理
を-次元単純凸多面体とする。をgenericな一次関数とし、の頂点は、を満たすとする。のグラフの各辺をの値が小さい方から大きい方へ向きづける。を入次数の頂点数とするとき、が成り立つ。
証明
明らかにである。各について、の-次元面の数をとする。
- 主張の有向グラフを各面に制限してもsinkはただ一つ。
- simpleであることから、任意の頂点について、をsinkとしてもつ次元面の数は、。ただし、は頂点の入次数。
よって次元面とそのsinkのペアの数をダブルカウントすることにより、各について、となる。ここで、のときなので、これはの値からの値が一意に決まることを言っている。
実はここまでの議論は、の取り方によらないものになっている。したがって、の値はの取り方によらない。特にの代わりにをとることによって、定理が示される。
コメント
- はの双対多面体のベクトルとよばれるものに一致します。上の定理は多面体に関するDehn-Summervilleの定理の初等的な証明となっています。
- 単純多面体のgeneric directionによる番号づけは、の双対の単体的多面体のshelling orderを与えます。
極値組合せ論における外積代数的手法
次のような極値組合せ論のBollabas*1の結果を紹介します。
定理
をなる自然数とする。が以下を満たしているとする。
- 各について.
- 各について
- ならば、
このとき、が成り立つ。
ちなみに定理内の上界を等号で達成する例として、があります。
linear algebraic methodの中でも外積代数を用いた非常に綺麗な証明があります。
証明
必要ならばやに適当に元を加えることで、各についてという仮定の下で定理を示せばよい。
であって、どの個も線型独立であるようなものを固定する。とする。すると、仮定より
- について、
- について、
が成立する。が線型独立であるならば、が従う。これらが線形独立なことは、なる非ゼロ係数が存在したとすると、最後の非ゼロ成分がであるとすると、となり矛盾することから分かる。
コメント
- skew-Bollabasの定理とよばれているようです。オリジナルのBollabasの結果は二つ目の条件を「相異なる[\tex: i,j]について」と弱めたもののようです。skew-Bollabasの定理を使う証明はset-pair methodとよばれるようです。
- 私はMatousekの本
https://kam.mff.cuni.cz/~matousek/stml-53-matousek-1.pdf
で昔ちらっと見かけていたのですが、下の本で、単体的凸多面体の上限定理の証明で使われているのを見つけテンションが上がっていました。次のような議論です。- 単体複体にpartition ]が存在するとき、は定理の条件を満たす。したがって、skew-Bollabasの定理から、hベクトルの途中までの和を上から評価することができる。実はfベクトルは、hベクトルの途中までの和たちの非負結合で書けるので、fベクトルの上界が得られる。
*1:恥ずかしながらmardownでの人名のアクセント記号が分からず、アクセント記号なしで表記します。
多面体版Stokesの定理
3週間くらい全然記事を書けていませんでした。というかアクセス解析をしてもアクセス0のこのブログを書き続ける理由などあるのでしょうか。だからこそ自由に書けるというメリットがあるのだみたいな論理で納得させています。長いものを紹介するのはハードルが高いので、shortな話になります。というか、この記事は特に質が低いので、削除するかもしれません。
最近ふと見つけた公開講座の語り口が敬体でとてもフィット感があったので、今日はそのようにいきたいと思います。
定理
凸多面体を考えます。の各ファセット毎に、次のようにベクトルを定めます。
- はに垂直で外向きである。
- の長さは各面の[d-1]次元体積に等しい。
このとき,となる。
余談
3次元版の問題をPeter Winklerの本で高校生の時に見て、一応解答を見たものの納得できなかった覚えがあります。
今となってはStokesの定理だねという主張です。が、正直積分とか忘れてしまって、どうやってStokesの定理を証明するんだったか思い出せません。恥ずかしい話ですが。
最近Lovaszの本を読んでる時に遭遇したので、懐かしくなりました。
証明
まず凸多面体は単体に分割できます(例えば、内部に点を取って、この点を頂点とし各ファセットを底面とする錐に分割すると、次元に関する帰納法から示せます)。よって、特殊ケースである単体について示せば良いです。
残された単体のケースですが、ちょうどいい線形代数の問題くらいなので、よかったら考えてみてください。
d-多面体のグラフのd-連結性
最近ようやく症状に気づいたのですが、以前は組合せ論周りで面白そうだと思うことがあまりにも多すぎて収集がつかなくなっていたようです。それも当然で、problem facingな分野であることは間違い無いですが、論文を書くまで至るにはある程度の流れを汲む必要があったりするのかもしれません。
何か毎週末書こうと思って始めたこのブログですが、ただ散文的に面白い結果を集めるのは何か違うような気がしています。また自分の時間も限られているので、このブログに何か書くためだけに情報を入れるのも違うように思います。とにかく普通に有意義に使っていきたいです。
今日はある結果を紹介します。一見脈絡がないように思えますが、実は無理矢理遠回りすればrigidityの結果の系としても得られるので、この先の記事の布石になるかもしれません。
定理[Balinski '61]
次元凸多面体のグラフは-連結
証明
の頂点をとする.点を任意にとり固定する.を取り除いても残りが連結であることを示す.場合分けをする.
- があるproper face に含まれる場合
上で最小値をとる一次関数をとる.はのあるface になる.上にないの頂点は必ずの値が自分より大きい頂点と隣接している.よってこれを繰り返すと必ずの頂点に辿り着く.
- がどのproper faceにも含まれない場合
適当に頂点を取る.およびを通る超平面を取る.この法線ベクトル方向の一次関数を考える.の点を全て通る支持超平面は存在しないので,の両側に頂点が存在し,はその両方に隣接している.一つ目の場合の議論と同様にしての両サイドはそれぞれ連結なので,全体として連結.
コメント
最初に言った話でより強くrigidityの結果の系になります。
定理[Whiteley]
-次元凸多面体のグラフは-rigid
サイズのseparatorがあるとそれをヒンジにして回せるので、-rigidなことに反します。よってBalinskiの結果はこれから直ちに従います。
simple polytopeの組合せ構造の復元
多面体の組合せ論にずっとうっすら興味を持っていたのですが、なかなか重い腰が上がらず何も進んでいませんでした。今週思い立ってある論文を読もうとしましたが、読み始めたのが平日でその日は読みきれず、日を跨いだらNotationを忘れてしまい、結局絶賛放置中です。仕方ないので別のものに手を出すも、そちらも議論に振り落とされてしまい、もう自分には論文読めないのかと思っていた矢先に、めちゃくちゃ短いKalaiの論文が読めたのでそれの紹介です。
を次元凸多面体とする.をの-skeltonのなすグラフとする.
問
から元のの組合せ構造を復元できるか(すなわちの面を全て列挙できるか)?
答えは実は一般にはNoである(後述するかも?).Kalaiは以下の論文でがsimple(すなわちが-正則)なときにYesであることを示した.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0097316588900647
これを紹介する.そもそもの発想と,途中でMorse関数のようなものを考えることが面白い.
証明の中身
まず,simple polytopeに関していくつか基本的な注意をしておく.
- がsimpleなとき,の任意の面もsimpleである.実際のfacetを考えると,少なくとも一本以上の辺がその支持超平面上にはなく,次元多面体の頂点の次数は以上であるためfacetについては成り立つ.これを繰り返し使うことで任意の次元の面についても言える.
- またsimple polytopeのある頂点を,に接続する辺全体の集合をとする.任意の部分集合について,を含みかつとの交わりがちょうどであるような面がちょうど一つ存在する.存在については周りの各超平面はのうちある辺だけを含まないものとなっているので,に対応する超平面の交わりを取ると言える.一意性については,存在するのであれば上記のことから次元はと等しいのでそれから従う.
の辺の向きづけで,有向サイクルを含まないようなもの(acyclic orientation)を考える.acyclic orientation がgoodとは,の任意の面について,を誘導部分グラフに制限したものにsink(出次数の頂点)が一つしか存在しないこととする.genericな方向の一次関数を考えることで,good acyclic orientationは常に存在することに注意しておく.
まずは与えられたacyclic orientationがgoodかどうかを,のみから判定する方法を述べる.
acyclic orientation について,を入次数の頂点数とし,とする.は考える理由は次である.
の空集合を除く全ての次元の面の数の総和をとする.acyclic orientation を固定する.面と,向きづけをに制限した際のsink の組の総数を数えたいとする.の入次数がだとすると,注意の通りに入ってくる辺の任意の部分集合に対応する個の面がとってこれる.よってそのような組の総数はちょうどに等しい.どの面にもsinkは存在するのでこれは以上.一方定義より,がgoodならが成立する.
したがって,全てのacyclic orientationを考え,の最小値に一致するかどうかでgoodかどうかを判定できる.これが重要である.
よって次を示せば十分.
主張
が-次元面をなすことは,誘導部分グラフが連結な-正則グラフで,かつあるgood acyclic orientation(から誘導される半順序)のlower setになることと同値.
証明
次元面の1-skeltonが-正則なのは既に述べた.また次元面が与えられたとき,そのnormal vectorをgenericな方向に少し回転させた方向を見ると,所望の向きづけが手に入る.
逆に後半が成立しているとする.の唯一のsinkをとする.に向かう本の辺を全て含む面が存在する.good orientationなので,半順序においての要素は全て以下.よって,]であるが、ともに連結で-正則なので,これらは一致する.
コメント
- simpleでない場合の反例としては複数のneighborly polytopeなどが挙げられるそうです。(まだ理解していません)
- 以下に色々情報源がありそうです。
教科書が読めない自分
できれば毎週末投稿をしたいと思っていましたが、今週は何か特別紹介したいことがないので、適当に思っていることを書きます。
僕は勉強する時に教科書っぽい本があまり読めません。その代わり、短めの話題を集めたようなものを好き勝手読んだりしています。
https://kam.mff.cuni.cz/~matousek/stml-53-matousek-1.pdf
この辺です。ただ、結局、網羅的な力がついてるような気がしません。でも頑張って教科書スタイルの網羅的な本を読もうと思ってもどこかでつまづきます。院生の間はそんなことを何度も繰り返して、結局実力が付かないなあと思って、うまくいきませんでした。どうしたらいいのでしょう。
もう結構な歳なのに、学習法で悩んでいます。。。
以上です。
奇次数グラフのハミルトン閉路の数に関するSmith Network Theorem
かなりニッチな話題を紹介します.
定理(Smith)
無向グラフがある.次数が偶数の頂点はのみで,それ以外の頂点の次数は奇数である.このときを両端に持つハミルトンパスは偶数個である.
証明
から補助グラフを次のように作る.
- の頂点集合はを端点にもつハミルトンパス全体.
- が隣接するのは,のときのみ.
各にはでない方の端点のラベルをつけておく.
- があると隣接するとき,にあるを加えたものから別の辺を一つ取り除いたものがを端点とするハミルトンパスになる.このようなことはがのラベルに接続するときのみ起こる.
- 逆にがのラベルに接続する場合,から辺を一つ取り除いて以外のを端点とするハミルトンパスを作る方法はちょうどつ.
したがって,の次数は,そのラベルのにおける次数より小さい値に等しい.よってにおいて,のラベルのついた頂点のみ奇数次数でそれ以外のラベルのついた頂点は偶数次数.そのためのラベルがついた頂点は偶数個となる.
参考文献